神々の戦い 十干隊の場合

神、其れは傍観者
神、それは不死
神、ソレは…

…世界を護る者…
 今は第三紀、柊が生まれる少し前…

 此処は藍[あい]の国の南にある水神の社…

「あぁ!!もぅ、誰も来ないなんて、みんなどうしたの!!」
とても明るい蒼髪をした背中に水神と刺繍の入れてある白いチャイナ服を着た少女が地団太を踏んでいる。
「もぅ、する事無いから監視でもするか…いや、する事ないからこそ、するべきよ!!」
水神は液体から全てを観る能力である『液眼』を発動した。
「えっと、[ミズノエ]や[ミズノト]は何処にいるかな…!?……え……。」
水神は息を飲んだ。
それは水神の眼に、何者かと戦う十干隊の姿があったからだ。
「早く知らせないと…」
そうして[R.W]は4紀に入ったのだった。

〜神々の戦い十干隊の場合〜

 此処は神守の住まう神守の里...
 時は4紀になる1日程前....
青い髪をした女と吸い込まれる様な黒い髪の女が話している…。
「それじゃあ、丙[ヒノエ]、いや椿ちゃん。ご出産おめでとう。」
丙と呼ばれた女が答える。
「いや、ありがとう。でも、仕事にはもう復帰出来るから大丈夫、壬[ミズノエ]。」
壬と呼ばれた女が軽く笑いながら答えた。
「いや、ただ、友として祝っているだけじゃないの。体、気を付けてね。」
丙は気にしてくれた壬に感謝の意を示す。
「ありがとう。」
「そういえば、あの赤ん坊は?」
丙はああ、というような感じで答える。
「少しでも危険の可能性があるからハバキのところに置いて来たわ。」
危険性?と聞き返しながら壬が答えた。
「いんや、多分、此処が墜ちたりしない限り、大丈夫でしょ。」
そういえばといった感じで丙が同意する。
「そうよね。あの十二支隊がいるんだし、そう簡単には危険にならないわよね......」
バン!!
二人の会話を扉の音が遮った。
 頭に乙と入ったバンドを締めた女が扉を開けて入ってきたからだ。
「丙、壬、今、先程十二支隊が何者かにより全滅した模様です。」
乙[キノト]が緊急の事態だと淡々と語った。
「最悪の事態だね...行くしかないみたいだな。」
「そういうことみたいね。もぅ、こんなに間が悪いときに…行こう壬。」
「あぁ、行こうか。丙。」
 先程迄の緩やかな気を二人は一変させる。
「十干隊行くよ!!」
十干隊の全員が勢い良く同意の意を答えた。
 謎のモノ達からこの世界から守るために彼女たちは自らの命を懸けて戦場に発った。


 此処はとある平原。
 二人の、コートを羽織ったセーラー服の双子の少女が立っていた

「あ〜あ、あんなの全然だったね♪幻[マボロ]お姉ちゃん。」
「まぁ、確かにね。[R.W]に入った途端に奇襲だなんて…その上負けるなんて…全然ね…現[アラワ]。」
「まぁね〜♪さっき奴等が呼ぼうとしていた"十干隊"ってのも弱かったりしたら、もっとダメダメだしね…。そういえば、お姉ちゃん、眠くない?」
「いや、まだまだいけるわ。眠いなら…何処かで野宿でもする?現。」
「もち。民家探すのも手間だしね♪」
 そして、その場は闇に呑み込まれていく…。


 その頃十干隊は…。

 皆走りながら目的地を目指していた。
丙が壬に聞く。
「壬、ナニか、おかしくないか?」
「確かに…。何か周りの周気が自分たちの気へと混ざり合わないそんな別の世界と言えるという様な異常な感覚がするわ…。」
 段々と目的地に近づいていくのだが、何かがおかしかった。
 十干隊の皆が薄々気付いていたことだが、それは、いつもなら体の気に周りの気つまり周気が流れ込んでいくモノであるのだが、今は気が淀んだ様に流れない。
 そう、誰かが流れを止めているような…。


 そして、十干隊の気配を察知した双子は…。
「現、感じる…イチ、ニィ、サン…全部で10の気の固まりが向かってくるみたい。」
 待ってましたとばかり現は目を輝かす。
「多分それが十干隊だね。楽しみだ…幻お姉ちゃん、先制攻撃してもいい?」
「いいわよ。早く片づけないと…早くこの仕事が終わらないと…。」
 言い終わる前に現が走り出した。
「お姉ちゃん、ちょっくら終わらせてくるね。」
「はいはい、分かったから、私も行くわよ。」

 その頃の十干隊は目前まで迫っていた。
 壬は後ろにいる癸[ミズノト]に伝える
「癸、後衛は任せたわ。」
「は、はい。師匠…いや壬さん。解りました。」

 丙は後ろの丁[ヒノト]に趣旨を伝える。
 同じ様に甲[キノエ]は乙[キノト]に、戊[ツチノエ]は己[ツチノト]に、庚[カノエ]は辛[カノト]に戦闘配備について伝えた。

「見えた!!」

 丙が敵を目視したのだが…。

「かかったね♪」
 現の囁きにより何もない空間に長い細い針が出現し癸と庚、を地面に縫いつけた。

「そう、戦いの基本は、相手の力を視る前に、使う前に…潰す。」
 現の指がパチンと鳴り…

 十干隊それぞれの上に巨大な針の山が現れていた。
「ミズノト!!」
 壬は真っ先に癸を助けようと駆けだしたが…もう癸に針の山が迫り…
 癸も癸で地面に手を触れ、水を発しようとしたが、出ないと分かると、涙目で壬に
「師匠…死にたくはな…」
 そう言ったきり針の山にかき消えた。

「カノエ様!!」
 辛は、自分を封印している目隠しと手枷を外し、庚を助けに走るが…
「辛、来るな、このくらいで私が死ぬとでも…」
 庚が全身に纏っていた金属を周りに浮遊させ針を防いだ。

「あと…九人。」
 幻がポツリと告げた。
 現は楽しそうに指を蠢かせ…
「じゃあ次に…」
「「お前の好きにはさせるか!!」」
 の緑を纏った拳と、乙の植物系合成種である木質系の大きな拳が唸った。
「…おっと。幻お姉ちゃん、こいつらお願い。」
 現が後ろに飛びつつ幻に言う。
「分かった。」
 幻はいつの間にか甲と乙の後ろに立ち手を開く。
「なッ!!」
「…ッ!!」
 甲と乙が後ろにぶっ飛び平原に叩きつけ…
「力は押し潰せば良い。」
…平原に叩きつけられずにスルッと平原に吸い取られた。
「フィニッシュ!!」
と現は叫び、何もない空間で腕を振り下ろした。
「あと…七人。」
そして幻が告げた。

「?!?!?!」
 丙と壬はその圧倒的な一部始終を直視して、驚きの色を隠せなかった。
「(あいつら、[R.W]に存在しない能力を自在に…)」
「(あれが、神の言っていた[D.W]の力だというの!?)」
「(いや、それなら神の言った通りに一つの能力しか持たない筈…。)」
「(じゃあ、どんな能力を…)」
 丙と壬の思案が巡るが敵は二人に時間をくれはしなかった。
「もらいッ!!」
 急に地面から沢山の剣が生えだした。
 丁は魔眼によって回避したが、後ろからの衝撃によりのめり込み…。
「ヒノトォォォオオォォオオオォォ!!!!」
…丙の叫び声も虚しく丁は事切れていた。
「あと…六人。」
 そして、幻の呟きが虚空に響いた。

「もう、限界です。カノエ様。」
「じゃあ、行くか辛。」
 庚と辛は地面から生えている剣を自分の外気圏内に入れて金属として吸収し始めた。
「あ、幻お姉ちゃん、あいつら私の出した剣を吸収してる…!!」
「金属ね…。」
 急に剣が霧散、庚と辛の上に山のような岩が降ってきて…
「この戯け!!その程度でこの私が倒せるか!!」
 庚が右足一つで降ってきた岩を砕いた。
「カノエ様!!行きましょう。」
「分かっている。丙、壬、援護を頼む。」
 庚と辛が別々に双子に襲いかかった。
「お姉ちゃん、行ったよ!!」
「分かっているわ、そっちにも…。」
現は辛を幻は庚を受け止める。
「なかなかやるな…。[D.W]の住民よ…。」
 庚が攻め込みつつ幻に言った。
「いや、私は…」
 幻は両手に尋常ではない周気を集め…
「[D.W]の住民ではなく、[D.W]の王に頼まれた…ただの別世界の双子な姫なだけ…。」
「な…ッ!!」
 そのフレーズに聞き覚えがあったのか庚に隙が生じ、それが命取りになった。
「あと…五人。」
潰れたはずの庚はその場から消失し、幻の声の余韻が残るだけだった。
「カノエ様ァァァァア!!!!」
 辛は力を強め現に拳をふるった。
「うわっ!!強くなったよ。」
 現は軽く受け止めつつ肩を竦める。
「「辛!!そんなことで動じるな!!」」
 丙と壬が後方から言うが、辛は暴走としか言いようのない動きを見せ現に攻撃を浴びせている。
「怒りに任したら最後だよ♪」
 現が後ろに跳び退いたので辛は追うように前に出た。
「だから言ったのに…。」
 現の呟く目の前で辛は潰れた。
「あと…四人。」
 そして幻が呟いた。
「壬、何となくだけど…あの能力の正体が判ったわ。私に力を貸して。」
「判ったわ。丙。私もあいつらの能力の正体が…。」
 丙と壬の背中に大きな翼が生える…それは丙の紅く燃える炎の翼と壬の漠く透き通る水の翼だった。
「数多なり死の魂よ彼[カ]のモノを巻き込み全てを奪え!!」
 丙の周囲に熱気が集まりはじめ…。
パイロクラスティックフロウォォォオオォォォォ!!!」
 火砕流が双子に流れ込んだ。
「現、落ち着きな…」
 幻の声が聞こえなくなった。
「有り難う。自分まで焼け死ぬところだったわw。」
 息を切らしながら丙が言った。
「気にしなくて良いわよ。私の能力は水だからw。」
 壬が笑いながら答えたが、しかし…。
「危ないわね…ホント。[R.W]にこんな技があるとは聴いていなかったから…。」
 無傷で現と幻が固まった火砕流を砕いて這いだしてきた。
「じゃあおぼれ死ね!!」
 壬は指を銃の形にして双子に向けて構えた。
「もう、[R.W]を脅かさないで!! ガンフラッシュフロウ!!!!!!」
 大きな水の塊が双子に襲いかかった…が…。
「…その程度…。」
 幻が急に接近して丙と壬にパンチを繰り出し。そして丙と壬の背後から現が蹴りを繰り出した。
「ガッ…!!」
「キャッ…!!」
 丙と壬は地に伏したが…丙は火柱を双子のそれぞれに飛ばした。
「この程度で…。」
 火柱は幻と現の目の前でかき消えた。
「えぇぇん、でぃぃぃぃん、グゥゥゥゥゥ!!」
 丙と壬は、抵抗の甲斐なく潰れ失せた。
「あと…二人。」
 幻の声が孤独に響いた。
「あれ?あと、二人は?」
 現は怪訝な顔をして幻に聴いた。
「そこにはじめから居る。」
 幻が土の穴を指差した。
「みつかっちゃったよねぇ…ダメ?逃げちゃ…。」
 戊が笑いながら土の穴から姿を顕した。
「重要な神の戦力を殺ぐのが私たち、幻創召喚双姫の役目だから…駄目。」
 幻がポツリと説明した。
「そういうコトだから抵抗しないで軽く逝っちゃってヨ♪」
 現が何処からともなく剣を12本飛ばした。
 戊は避けようともせず数本受ける。
「(神が来るまでの辛抱だ。其れまでお前は生きろ。)」
 つい先程、戊が己に言った言葉だ。
「ツ…チ…ノ…ト…?」
 己が上を見上げると剣の刺さった戊が立っていた。
己は涙を流しながら命を縮める戊に涙した。
「戊、ツチノエ、つちのえ!!死んじゃ嫌ぁ…。」
「大丈夫…神が来るまでは…死ぬ…つもり…は…ない…グフ。」
戊が血を吐いた。
「もう終わり…」
幻が戊を潰そうとするが…潰れなかった。
「…え…効かない?」
魔ぼろは不思議そうに声を上げた。
「もぅ、私が終わらせるって♪」
 と言いながら現が戊に蹴り込もうときたそのとき…。

「悪人は正義に勝っちゃイケナイのよ。」
戊と己の前に蒼髪の神…水神が立っていたのだった。
「水神…もぅ、退くよ…現。」
「え〜。水神とも戦いたい〜♪」
「私たちは仕事でこれをしているの。わかるわよね。」
「は〜い。」
 双子は帰還輪により[R.W]から消え去った…が、しかし…。
「ツチノエ、死んじゃ嫌ァ…死んじゃ…。」
神の側で瀕死の重傷を負った戊とそれに付き添う形で己が居た。
「ゴメン…戊として…俺には戊、君しか救うしか方法がなかったんだよ…。」
「ツチノエ、ツチノエェ…。」
「す…ま…ない。」
戊は己に伸ばした腕をだらんと下に垂らして事切れた。
「ツチノエェェェェエエェェ!!!!!!!!!!」
その広野には己の泣き声が響くばかりだった。
そして…十干隊はこれを機に事実上解散したのだった。

[R.W]神々の戦い 十干隊の場合

  • 終-